ああ、なんだか気持ち悪い。
 ここで無理すると返って倒れたりしそうな感じがする。やっぱりマイペースに行こう。
 半ば開き直って普段どおりの歩調で正門を目指す。学校が山の上とかに建ってなくて本当によかった。これで坂道だったりしたら最悪だ。たどり着く頃には一時限目が終わりかねない。
 そんなことを考えていると、朝のホームルームの始まりを告げるチャイムが風に乗って聞こえてきた。ああ遅刻回数がまた増えた……。自業自得だけれど気になるものは仕方がない。
 しょんぼりうなだれて正門に着いたあたしは、ふと目の前に人影がさしたことに気づいて顔を上げた。
「中等部二年のアリアさん、遅刻ですよ」
 長い髪が風になびく様子が実にサマになっている。朝だというのに無駄なく美しい身のこなし。
 ま、まぶしい。ああっ、まぶしすぎて思わず目を細めてしまいたい!
 そこにいたのは生徒会長だった。高等部二年の月城雪さんという人で、月明かりに咲く花のような外見に、全国模試で常にトップクラスの頭脳という、天が二物を与えた学園内で有名な先輩である。高等部に進学するや否や生徒会長に推薦され、対立候補なしで当選・就任して以降、生徒会の自主運営、管理全般を仕切っているという有能ぶりなのだとか。
 もちろんあたしは直接声をかけられたのは初めてだ。どうしよう緊張する!
「あなた、今月これで三回目ですね。今学期から生徒会で遅刻取締りを行っているのは知っていますね?」
 返事をする声が思わず裏返ってしまった。月城先輩の玲瓏とした声とはえらい違いだ。うー、凹むなあ。
 月城先輩が言っている取締りとは、抜き打ちで遅刻者をチェックして、回数が多い生徒にはペナルティが課されるというルールのことだった。この実施が決まったとき予感したけれど、やっぱり引っかかってしまったようだ。この頃ほんとに頻繁に遅刻してたからなぁ……。
「何か遅刻の理由があったら教えてもらえますか? 事情によっては免除ということもありますよ」
 あたしは首を横に振った。朝はいつも体調が悪いといっても医師の診断書があるわけではないし、それを見越してもっと早く起きれば済む話だから、遅刻の正当性は認められないだろう。あーあ、ペナルティか。がっくり。
「そうですか。では残念ですが要件に該当しますので、あなたにはペナルティが課されることになります。夕方のホームルーム終了後に生徒会室へ来てください。担任の先生には私から連絡させていただきます」
「あの、ペナルティってどんなことなんでしょうか。罰掃除とか?」
 おそるおそる訊ねると、月城先輩はあたしを安心させるかのように微笑んでくれた。ほんのかすかな笑みだったけれど、あたしは胸がいっぱいになってしまった。
 彼女の返答は明瞭だった。 「放課後、校内巡回を手伝ってもらいます」


パトロール隊員?