そして迎えた即位式。
国花である鈴蘭を模した首飾りと耳飾り、生花の鈴蘭をあしらった優美な髪飾り。両手首には大公家の家紋が刻まれた腕輪が煌めいている。身を包むベルベットはまるで指先でそっと集めた月光のよう。
豪奢な第一礼装を纏い、わたしは即位した。
儀式が執り行われた広間には、見渡す限りの貴族や国賓がひしめいていた。けれども公族の席は設けられておらず、母方の祖父、つまり外戚であるレグルス護国卿を除いて、近しい血縁者の出席はひとりもない式典となった。
人々に見守られる中、わたしは壇上に鎮座する輝冠を手に取る。純白の手袋に覆われた指先に、その重みが確かに感じられた。
プレアデス──六連星、すなわち大公家を筆頭とする六つの貴き血──を示す六種類の宝玉が埋め込まれた至上の冠。
遠い国々では信仰の頂点に立つ者が王に冠を授与するそうだが、プレアデス大公国の国主は、輝ける冠を、自らの手でもって己が身に授ける。それは、望んで大公の地位を受け継ぐのだという意志表明であり、宣誓でもある。
建国の聖母王から父上に至るまでの、通算二十一名の大公がそうしてきたように、輝冠を頭上に戴いた瞬間から、わたしは正式にこの国の大公となった。
史上最年少、二十歳の大公の誕生。国中が沸き返ったような祝賀雰囲気だった。
彼らはまだ誰ひとりとして疑問に思っていない。父上が「身体が弱いので静養中」と言い続け、影に隠してしまった第二公女。民衆がその存在を思い出すのは、当分先のことだろう。
わたしはすでに決定を下してしまったのだ。宰相らの意見を退けて私情に走ることはついにできなかった。だからあの子は今ここにいない。
きっとわたしはこの日を生涯忘れないだろう。
イラスト:
晴様
END