そんなサルビアの想いをよそに、二人はごく普通に会話を交わしている。
「ふうん。暗殺稼業者の中の死神、か」
将が淡々と呟くと、悠二は何を思い出したのか妙に陶酔したような表情になった。
「いわば宝石の中のダイヤモンドだな」
「じゃあ、獣の中の獅子ってのはどうだ」
「おっ、ショウ、お前さんにしちゃ上手いこと言うな」
「へっ、伊達にヒマ人してねーよ。オレとしたことが、この頃すっかり読書漬けだからな」
「んじゃ、ちょいと風雅に、花の中の薔薇でどうだ」
「薔薇って好きくない。秋の味覚の中のマツタケ」
「結局食い気かよ。ってか、お前さんクッキー一人で食い過ぎ」
……サルビアは天上を仰ぎ見た。
ダイヤモンドだのマツタケだのに喩えられた少女のことが気がかりだった。この二人は殊更にふざけることで脳裏から苦悩や罪悪感を閉め出そうとするが、エーデルワイスは違う。闇夜のただなかに独りきり、静かに耐えているのだろう。
簡単にすげ替えの利く駒として利用される者の多いこの地下世界において、唯一無二の存在であり、常に誇りをもっているエーデルワイス。それが彼女の望む生き方だと知っていても、サルビアは胸を痛めずにはいられない。
あの少女が全身に纏う引き絞られた弦にも似た緊張感は、いつか彼女自身を壊してしまう──そんな埒もない予感が頭から離れないのだった。出会ったときからずっとだ。
地下室で紅茶を淹れるとき、サルビアは何度も祈る。
どうか、彼女にひとひらの安らぎを。
過酷な道を自ら選び取った彼女が、その重圧に潰されてしまわないように。
あの清冽なる魂に、わずかでもいい、安息を。
祈りは湯気と一緒にゆるりと立ち上ってゆく。