「どうせならルシフェルも一緒に学ばせたらどうだ。歴史や系譜の知識ならば教えても無駄にはならないだろう」
「そうね。どっちにしても学習計画の中に組み込まれているはずだし、そのほうがルシファーも嬉しがるわ。あの子に自分の中に特異な力があるという自覚が生まれるまでは、きっとルシフェルの助けが必要になるでしょうしね」
「氏族の皆にも事情を説明して、交代で教師役を務めよう。そうだな……いま手が空いているのはセエレ叔母か、ヴィネあたりか」
「よろしくお願いします。王にはわたくしからお話しておきますが、近いうちに改めて三人で相談をいたしましょう」
今後はいっそう綿密に連絡を取り合うことを約束し、兄妹は露台を後にした。
もたらされた、その力。
幾世代も連綿と受け継がれる霊妙なる力は、天上から舞い降りた雲上人たちの遺産だ。
無邪気に笑う幼い愛娘を思うと、王妃の胸は締めつけられるように痛むばかりだった。
いつの間にか空全体に不穏な雲が広がっていた。
ぽつり、と雨粒が弾ける。気の早い時雨だ。湿り気を帯びた風が吹き抜けて、遠くの木々を一斉にざわめかせる。
露台に残された上品な碗の中。冷めてしまったお茶に、音もなく小さな波紋が広がった。
END