お昼休みの食堂は生徒たちで賑わっていた。
テーブルの大きさは大小様々で、四人がけのものが多く、それぞれ違った色のテーブルクロスに覆われている。窓際には一人で静かに食べられるよう配置された長テーブル。ところどころに飾られた生花。奥の厨房で調理をする音と、注文をとる声、さんざめく話し声、たくさんの音が渾然一体となって和やかな雰囲気を織り成している。
いつもは簡単なサンドイッチとかを作ってきて教室で食べるんだけど、今朝はいつにも増して体調が悪くて何も用意できず、お昼を食堂でとることにしたあたしは、そこで再び『彼ら』の姿を見て唖然とした。
「はい、オムライスのサラダセットお待ちどうさま☆」
ふりふりの給仕服を着た女生徒が愛想良くトレイを運んでくる。清潔感のある髪型と明るい笑顔は、彼女の纏った衣装をいっそう引き立てているようだ。本来なら番号札を呼ばれて自分で受け取りに行くところを善意で運んでもらって、トレイを受け取った上級生は嬉しそうだ。奇抜なウェイトレスの存在に驚いた様子もない。
開いた口がふさがらないまま隣にいたクラスメイトに訊ねると、彼女──ティキュ先輩が給仕娘の格好で配膳するのはときどきあることで、毎日食堂でお昼を過ごす生徒の間ではすでに馴染みの光景になっている、という答えが返ってきた。
ティキュ先輩は次から次へと手際よく仕事を続け、食堂や厨房を燕のように行き来する。楽しそう、ですね……。
花魁の次はウェイトレスとは。この調子だとやっぱり銅像疑惑が拭えない!
「あ、そのデラックス餡ドーナツはオレが先に手ェつけたんだぞ!」
「エルガーてめえこそ卑怯なマネすんな! そのツナサンドは俺が先に取ったんだ!」
「嘘つけ! 横からひったくっただろーが!」
食堂前に設置されたパン購買所から響いてくる怒声だった。
そっと様子を窺うと、どうやら男子生徒二人がパンの奪い合いを繰り広げているらしい。そのうちの一人はエルガー先輩だ。って、子どもかあの人は!
「だいたい毎日まいにちオレに突っかかってきやがって! たまには食堂でカツ丼でも食えってんだ!」
「そりゃこっちの台詞! 誰がなんと言おうと俺はパン派なんだ! 特にここのパンはどれもふんわりサクッと食感が最高なんだからな!」
食堂の隣には談話室があり、その奥のテラスも生徒が自由に使えるので、天気の良いお昼休みには購買所でパンを買ってランチをするグループの姿がちらほら見られるのだけれど、こんなに罵声の応酬が続くのではゆっくり食事できないだろう。
が、これにもまた周囲は慣れているのか、とりたてて問題視する雰囲気はない。「またやってるなー」とチラ見して、あとはスルー。
……みんな大らかだな!
自主ウェイトレスと、熾烈なパン争奪戦と、それらをすんなり受け入れている人々と。
もしかしたら、この学園には他にもとんでもない変り種が潜んでいるのではないだろうか。そんな畏怖を覚えたお昼休みだった。
END
「あたしもパン食べたくなっちゃった」