中庭で問題の謎植物に向き合った途端、メイシュー先生のテンションは一気に最高潮に達したようだった。
「素晴らしい……これはすごいです! この歪な形状、不自然なまでに鮮やかな色合い、三つ又になった葉。きっと新種に違いありませんね!」
大喜びで白衣のポケットをまさぐる。取り出したのはナイフ、掌サイズほどのシャーレ、ピンセット。蔦の表面をナイフでこそげ取ろうとして歯が立たず、仕方なく葉をつまんで採取した。続けてデジカメで接写、全景、各部位の撮影。……その道具いつも持ち歩いてるんですか、とか訊いてもきっと答えは返ってこないんだろうなぁ。すごい夢中っぷりだ。
あたしはもちろん、ハルイ先輩もセレシアス先生も何も言えなかった。イキイキと動き回るメイシュー先生をただ黙って見つめるのみ。
「処分? とんでもないです、これは貴重なサンプルですよ。今後は中庭の管理は私が行います。園芸部はこの件を生徒会及び校長あてに文書で報告してください。私から説明しておきますから」
機嫌よく言い放ったメイシュー先生に、ハルイ先輩は呆然としたまま頷いたのだった。
その後。
あたしが正式に園芸部に入部する頃には、中庭に面した校舎の壁面は、どこもかしこも謎植物の蔦に覆われてしまった。びっしりと、隙間なく。クワでも傷ひとつつかない強靭な植物に。
……中庭の管理権を掌中に収めたメイシュー先生が、どうやら肥料を思いっきり投入したようだ。
おかげで窓が開けられないし外は見えないし、採光も格段に悪くなった。噂ではメイシュー先生は校長や理事長から相当こってり絞られたらしいが、中庭で忙しげに何か作業をする姿を毎日にように見かける。ちっとも懲りてなさそうだ。
園芸部一同で今回の件を合議した結果、『最初から関わらなかったことにして今後一切をスルーする』で満場一致した。ついでにセレシアス先生にも口止めしようとしたのだが、気の毒な教育実習生はメイシュー先生に首根っこを掴まれ謎植物の世話を手伝わされていた。
なんとも不憫なことに、すでに手を引きたくとも引けない共犯状態のセレシアス先生を目の当たりにして、あたしたちはそっと目をそらすしかなかったのである……。
END
「セレシアス先生に幸あれ〜(涙)」