驚異的な成長スピード、クワを跳ね返す強靭な蔦、見るからに奇抜な色。うん、パーフェクトに怪しい。得体が知れないにも程がある。
 こんなヤバそうな植物、育てたりしたら駄目でしょーが。処分ですよ処分!
 あたしがそう言うとハルイ先輩は少しばかし残念そうな顔をしたけれど、すぐに同意してくれた。
「だよなあ。なんかこのままの勢いだと不味いことになりそうだし」
 翌日、園芸部総出で謎植物の掃討に取り掛かった。ノコギリやナタなど使えそうな道具を片っ端から駆使して蔦を切り分け、葉をむしり、根を掘り返す。
 くんずほぐれつ、阿鼻叫喚の様相を呈しながらも作業は徐々に進み、皆が汗みどろになって陽が暮れる頃には、中庭にもとの平穏な光景が再び現れた。
「も、もう駄目……動けない……」
 力尽きて倒れた部員たちが累々と転がっている。あたしはといえば喋る気力など一滴も残らず、ただもう屍のごとく倒れ臥すのみだ。
「でもこれで一安心だな。皆ありがとう、お疲れ様!」
 重い身体を引きずりながら、それでも達成感が胸に快い。中庭の平穏は取り戻されたのだ。帰り際は、誰もがみんな笑っていた。

 ──ところが。

 次の日の朝、中庭にやってきたハルイ先輩とあたしは驚倒した。
 目の錯覚ではない。夢でもない。昨日あれほど苦労して取り除いた蔦絨毯が、なんと、何事もなかったかのように再びわんさか生い茂っていたのである。
「ななななな」
「…………」
 驚きのあまり言語機能に支障をきたしたハルイ先輩と、言葉すら出てこないあたしは、ただ呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。
 その日から中庭の謎植物はスバル学園七不思議のひとつに加えられ、中庭は出入り禁止の魔境となった。
 すっかり意気がくじけたあたしは園芸部への正式入部を辞退し、万年帰宅部に専念することになった。今までと変わらない生活を選んだわけだけれど、その変化のなさがなぜか妙に心地良いのだ。
 やっぱり人間、急に慣れないことをするもんじゃないですね。うん。


   END

「その後、園芸部は廃部になったそうです……(合掌)」