「先生は、どうして教師になろうと思ったんですか?」
 気がついたら声に出してしまっていた。自分でもなぜそんなことを訊ねたのか分からない。
 でもセレシアス先生はたいして驚いた様子もなく答えてくれた(このテの質問に慣れているのかもしれない)
「子ども時代にあまり学校に通えなかったから、かなぁ」
 本棚の上のほうをなぞる視線。飾らない言葉。セレシアス先生は本当の気持ちを答えてくれているんだ。そう思うと自然に居ずまいを正してしまう。
「学校に、憧れみたいなものがあるのかもしれない」
 と付け加えて、そしてセレシアス先生は口元だけで笑った。小さく、はにかむように。
「辛い思いもしたけど、こう、同じ年頃の子が毎日同じ場所に来て、一緒に授業を受けて、遊んで……そういう場所でしか学べないことやできないことって、確かにあると思うんだ」
 うわあ。セレシアス先生が自分のこと喋ってるの、初めて聞いた。うわあ、うわあ。
 そっか。この人はそういうことを思って、それで教職を選んだのかあ……。
 セレシアス先生の穏やかな声が、胸の奥深くにじんわりと染み入っていく。
 ──あたしもいつか、自分の進む道を選び取る日が来るのだろう。そのために、きっと今しかできないことがある。
 精一杯学んで、遊んで。学校って、きっとそういう、そのための場所なんだろうな。
 セレシアス先生の話を聞きながらそんなことを思った。
「……実習が終わって教員免許とったら、またこの学園に戻ってきてくださいね」
 今度こそ驚いた表情になったセレシアス先生を見て、あたしは思わず笑み崩れたのだった。


   END

「その後ちゃんと全部見回りしましたよー」