なんだか恐れ多い気もするけれど、生徒会長さんに相談してみよう。
 高等部二年の彼女は学園で一番の才媛と名高い。才色兼備、玲瓏玉のごとしと口を極めて褒め称えられる、まさに高嶺の花のような存在だ。あたしは面識がないけれど、ハルイ先輩は部活の予算会議とかで何度も話をしたらしい。
 ハルイ先輩と二人しておそるおそる生徒会室を訪れると、会長──月城先輩はパソコンに向かって何かのデータ入力をしていたらしく、机の上には書類とファイルが置かれていた。お仕事中にすみません。
 椅子から立ち上がって迎えてくれた彼女に、少し時間をもらえるか確認すると、月城先輩は部屋の壁際にある応接セットへ座るようハルイ先輩に促した。
 ハルイ先輩が恐縮しながら手短に事情を打ち明けても、月城先輩は驚くでもなく困惑するでもなく、聞き終えてから静かにこう言った。
「分かりました。現場を見に行きます」
 頼もしいー!
 月城先輩はすぐさま中庭に行くつもりのようだ。表情を輝かせたハルイ先輩も腰を浮かせる。百聞は一見にしかず、ってことで、さっそく現地に直行です。

「……とまあ、こういう有様でして」
 ハルイ先輩の乾いた笑い声が、中庭を通る風に吹き消される。
 中庭の半分近くを侵食している謎の蔦植物。その茎や蔦は尋常じゃなく強靭で、やはり刃物は通らない。月城先輩は表情を変えないまま蔦の先端に触れていたが、すぐに結論を出した。
「焼却処分しましょう」
「も、燃やすんですか?」
「表面に出ている部分は焼き払って、あとはおおもとになっている根の部分を掘り返す。かさばる蔦は、そうですね、木材用のチェーンソーあたりなら切断できるかもしれません。業者の手配をしましょう」
 それから月城先輩はあっという間に段取りをつけてくれた。火器の扱いを生徒がするわけにはいかないので専門の業者さんに依頼し、必要な用具を揃え、校内に作業の告知を出す。もちろん校長の許可を取り付けた上で。
 すべて滞りなく話が進んでいくのは圧巻だった。さすが生徒会長、って感じ。
 園芸部には厳重注意があるかと思っていたけれど、始末書の提出を言い渡されただけで済んだ。そのときハルイ先輩と月城先輩が交わした会話は、このようなものだったらしい。
「始末書、ですか……」
「部活動運営費の予備費を流用する関係上、予算審査会に諮る必要があるんです。こちらが見本。日付と押印を忘れずに」
「分かりました。何からなにまですみません」
「作成したら生徒会室に提出してください。副会長たちには話しておきますので」
「はい。お手数をおかけします」
「今後は何か困ったことがあったらすぐに相談してください。そのための生徒会ですから」
「以後気をつけます」
 後日、中庭にはもとの平穏な光景が戻った。焼却作業の実施の際には月城先輩が立ち会ったそうだ。
 ああ、あの人に相談してほんとに良かった。これで安心して正式入部できる!


   END

「怪しい植物は育てちゃいけません」