終わりの見えない言い争いはヒートアップするばかり。これはもう付き合いきれません。
あたしは二人を尻目にこっそりその場を抜け出した。ティキュ先輩もハルイ先輩も口論に夢中で気がつかない。
ああ、どっと疲れた……。
まっすぐ教室へ戻る気にもなれなくて、ぶらぶらと階段を上っていった。屈託のない笑い声や、ロッカーの開け閉めをする音が遠くから聞こえてくる。
やがてひとつのドアに突き当たった。屋上だ。鍵がかかっているんだろうなと思いながらノブに手をかけると、意外なことにすんなりとドアは開いた。
風が吹き抜ける。視界いっぱいに広がった見事なスカイブルー。目がくらみそうなほど透明で、綺麗。
「クチ開いてるぜ。マヌケ面」
開放感に浸っていたところに突然声をかけられたものだから、あたしは思わず身を竦ませてしまう。驚いて左右を見渡すと、むっくりと起き上がった人影が。
「なんだ、お前もサボリか?」
声ははっきりしているけれど、着崩した制服もそのままに、先客はさもダルそうに額を掻いている。上級生だ。手櫛で整える以上の注意を払っているとは到底思えない黒髪、鋭いというよりガラの悪い目つき。いかにも不良っぽい雰囲気をかもし出している。古式ゆかしい学ランに赤いTシャツとかを好んで着そうな人だ(実際そんな感じの格好をしている)
ええと確か、エルガー先輩、だったかな。上履きのラインから判断するに、高等部の二年だろう。ティキュ先輩と同じだ。
そうか屋上は不良さんのサボリの名所だよね、と内心納得したところで、あたしは後ろ手にドアを閉めた。
「サボリというか、なんというか。やむにやまれず」
「なんだそりゃ」
やっぱり上手く説明できない。でも、まあ、いいや。お天気もいいし、このまま次の授業をサボってしまおうか。抗いがたい誘惑が、真夏の入道雲のように脳裏を占拠し始めていた。
フェンス越しに町並みを見下ろすと、さっきまでの喧騒が胸中からすうっと遠のいていく。吹き行く風に洗い流されるかのようだ。
サボリ魔の不良さんが屋上を好むの、分かる気がする。ここは静かで、ゆっくりと時間が過ぎていく感じが心地良い。……癖になりそう。
どのくらい沈黙に浸っていたのだろう。気がつくと三時限目はとっくに始まっていた。せっかく頑張って走って登校したのに(保健室直行だったけど)、保健室登校に続いて授業サボリ。あたし、問題児まっしぐら?
じわじわと忍び寄ってくる後ろめたさを噛みしめていると、エルガー先輩が再び声をかけてきた。
「なァ、今から学園七不思議ってやつを検証してみねーか?」
…………。
どうやらこの人、とんでもない思考回路の持ち主のようです。
⇒ なりゆきで検証スタート