乳白色がふわりと広がる。
北海から容赦なく吹きつけてくる風も、エリッサの周囲ではまるで申し合わせてその烈しさを緩めるかのようだった。銀嶺に芽吹いた幻花のようなその容貌は、彼女が見た目どおりの年齢だった頃から少しも変わっていない。いつも一緒に遊んでいた、遠い日の幼なじみそのもののように見える。
彼女、エリッセイヴレム──レム。わたしのただ一人の幼なじみ。
ふと気付いて、わたしはレムの頬にかかった髪を直してやった。けれど彼女の瞳はわたしを通り越して湖畔を見つめたまま微動だにしない。虚ろに浮かんだ微笑みもそのままに。
碧く揺らぐ湖面、遠望には久遠なる雪冠を戴いた霊峰の裾。
長生種の領域、リュミレス樹海の端。レムと二人、世界から隔てられ取り残されたかのような錯覚が全身を浸していく。
陽だまりの中の揺りかごのようなこの場所で、レムはずっと待ち続けているのだった。
とうに行方が分からなくなった青年を、二人が初めて出会ったというこの湖畔で。
かつて森に迷い込んできた青年と情を通わせ手を取り合って出ていき、時を経て再び郷里の地を踏むことになったレムは、もはや以前の彼女とはかけ離れた変貌を遂げていた。
変わっていなかったのは花のような外見だけ。もうわたしの声も聞こえない。傷だらけになりながら、小さな身体で精一杯抱き抱えるようにしてレムを連れてきたあの子の声さえも届かない。
独り、楽園に一番近い場所に住まう彼女は一体何を思っているのだろうか。
──いつかきっと迎えにきてくれる。
その慕情だけを胸に押し抱き続けた果てに、意識の真芯まで優しく蝕まれてしまったというのに。
哀れなレム。
愛しいレム。
あの子は桜色の目を伏せて震えていたぞ?
あの日、ひどく打ちひしがれた眼差しでレムの横顔を見上げていた少年の姿を、わたしは決して忘れられないだろう。
あんなにも
稚い子がずっと傍にいたというのに、あんたは……。
蒼穹を溶かしたような瞳でレムが見つめるのは、今なおたった一人の存在のみ。想い窮めて常の道を逸し、それでも想念を手放さぬほどに固執して。
鮮やかに決定的にレムの心を
攫(っていった青年が脳裏を過ぎり、わたしはきつく目を閉じた。
涼しい目元をした青年だった。彼の傍にいるときレムの頬は
鴇色(に染まり、きらきらと輝いてまばゆいばかりだった。
そして、いま隣に座っている乳白色の髪の娘は、焦点の合わぬ茫漠たる眼差しでここではないどこかを見つめ、わたしではないあの青年を捜し求めている。
緩やかに流れるレムの髪に触れて、わたしは幼なじみをそっと
偲(んだ。
あの遠い日、二人で霊峰を探検したレムは、もう、いなくなってしまったのだ。
祈らずにはいられない。
彼女が再び“魂の寝所”を見出せるように。
軋んでひび割れた心に温かな雨が降り注ぐように。
どうかレムに、穏やかな幸せを。
イラスト:
晴様
END