夢を、見た。
喪われてしまった大切な人たちの顔。幼く無邪気な自分の声。
もはや二度と取り戻せない……懐かしい日の、夢。
目が覚めたときにはもう曖昧に霞んでしまったけれど、その切ない温もりの余韻は、花の残り香のようにいつまでも胸の奥深くに揺らいでいた。
*
東雲ノ宮。午後のひととき、露台を吹きゆく風が快い。
勉学と行事の打合せが一通り済んだ後、お茶休憩をとりながら、わたしは向かいに腰掛けた従兄を見つめた。
他愛のない会話の合間、視線が触れ合う。
ジルお兄様の常盤緑の瞳がふっと和んで、柔らかな表情がいっそう甘やかになった。
心地よい沈黙。この眼差し。わたしはいつもつられて微笑んでしまう。
実感する。見守ってくれる人がいるのだと。他の何にも代えられない、温かな心遣いに包まれているのだ、と。
ふと気がつくと、従兄の掌がわたしの頭に触れていた。
剣や弓の鍛錬ですっかり硬くなった指先が、繊細な動きで頭を撫で、そっと髪を梳いていく。
たちまち疲れも緊張もほぐされて、心の隅々にまで優しさが染み通っていく。
とても満ち足りた、木漏れ日の下にいるような安心感にくるまれて、わたしはもうすぐ十五歳になる。女王として即位する日も遠くない。
良き王に、なりたい。
あの戦禍の中でわたしの命を守ってくれた人たちのためにも。
ずっとわたしを庇護し、支えてくれている人たちのためにも。
もちろん──ジルお兄様の、気持ちに応えるためにも。
END
【君へありがとうを10回言おう】
お題拝借:
ユグドラシル様