旧体育館に続いてやって来たのは正面玄関。そこには登下校する生徒を見守るように佇立する銅像がある。
 学園の創立者の像だ。美術室にある石膏像のほうは、まだ少女の面影が残る瑞々しい娘時代を写し取ったものだったけれど、こちらは壮年にさしかかった頃の姿だった。上品にまとめた豊かな髪、微笑んだ口元。柔らかさの中に芯の強さが垣間見える、いかにも実績を積み重ねてきた女性篤志家といった風貌だ。
 よその学校のセレモニーホールで見た銅像と比べて、これはずいぶんと精緻に創られているようだ。きっと往年の彼女の姿を忠実に再現しているのだろう。
「で、これが台座から降りて歩くって?」
「露骨に棒読みすんな。これは一番有名な話だし目撃者も多いんだぞ」
 そう言われてもねぇ。現実味がなさすぎるし、不思議現象なんて実際自分の目で見なきゃ信じられないよ。
 だからあたしの脳裏に浮かんだのは、やたらリアルな特注衣装で銅像に扮したコスプレ同好会長の姿だった。
 着ぐるみパフォーマンスのようなノリで、夕暮れ時まばらに下校する生徒を脅かす……。あの先輩の嗜好と行動力なら嬉々としてやりそうな気がする。それもたいした意味もなく。
 決めつけは駄目だけれど、そんな想像が膨らんで仕方なかった。怪奇現象よりよっぽど現実的だもんね。
 その考えを口に出してみたら、エルガー先輩は嫌な顔になった。
「アイツかー。やりそうだよなァ」
 うめくように呟いたきり、黙り込むことしばし。あのう、こんな目立つところにいつまでも突っ立ってると誰かに見咎められますよ。
 やがて諦めたように深く嘆息して、軽く首を振る。その様子からエルガー先輩が七不思議検証の打ち切りを決めたことを察したあたしは、これが良い潮とばかりに辞去したのだった。
 ああ、もうこんな時間かぁ。一時間カンペキにサボってしまったよぅ。
 そういえば、そのコス同好会長ことティキュ先輩はもう退散しただろうか。


その後、お昼休み