司書のレヴィスさんとは時々話をするから知っているのだけれど、この人はこう見えてオカルトに詳しい。といっても怪奇趣味にのめり込んでいるわけではなく、サブカルチャーとして興味を持っているのだと言っていた。
この状況で、これほど頼りになる相談相手は他にいない。あたしは本を彼に押しやり、半泣きでたった今起きた事実を報告した。
「ふうむ」
問題の本をぱらぱらとめくる大きな指が、不意にぴたりと静止する。
おそるおそる覗き込んでみれば、そこには先程見たのと同じ筆跡で、しかし違う一文が記されていた。
──あなたは口止めをされるでしょう──
ひぃぃ! さっきはこんなの書いてなかった! それにさっきの一文がどこのページにもないってどういうこと!? 消えたの? そうなの?ちょ、もうホントやめてほしい!
「文字が消えたり現れたりする本、か。聞いたことがないな」
そ、そんなぁ。聞いたことないって、どうしてこの人はこんなに落ち着き払っているのだろう。鉄面皮にも程がある!
「ここにある本は理事長が直接持ち込んだものだから仕入元は不明だ。もちろん蔵書リストにも載っていない。……直接訊いてみるしかなかろうな」
「え。直接、って、理事長に?」
レヴィスさんは重々しく頷いた。やっぱり鉄面皮だけれど、真剣に考えてくれているのが伝わってくる。
呆然と佇むあたしを尻目に、レヴィスさんはてきぱきと動き出した。カウンターに『司書不在』の札をかけてパソコンをログオフし、件の薄い本を手に提げる。
「いらっしゃるか分からないが、まあとにかく行ってみよう」
「ううう」
「キミは第一発見者なのだから、そのときの状況を詳しく伝えるんだ」
「うああああっ」
「泣くな。私だってちと気味が悪い」
レヴィスさんは手の中の本に視線を落とした。気味が悪いんだったらちょっとはそういう表情をしてください……。
⇒ 理事長に直談判