それから何日か経ったある日、セレシアス先生はクラス全員に日記を書く課題を出した。
 みんな最初は「小等部じゃあるまいし」「今時アナログすぎ」「しかも提出って」と首を傾げていたけれど、先生が訥々と説明するうちになんとなく趣旨を悟ったらしい。放課後になる頃には、日記帳を買いに行こう、何を書こうかなぁといった意欲的な話題が教室に満ちていた。
 クラスメイトに文房具屋さんへ行こうと誘われたけれど、あたしはあの夕暮れにセレシアス先生と話をしてすぐに日記帳を用意して、すでに日記をつけ始めていたので、行くだけお付き合いすることにした。
 実はその日記帳、今も鞄の中に持っていたりする。表紙は爽やかなブルー。柔らかな青空に羊のような雲が浮かんでいるデザインで、B5サイズのシンプルなノートだ。中のページには白紙に水色の罫線、ページの隅に小さな花のイラストが入っている。
 あたしの毎日を綴る、あたしだけの日記帳。
 今日も帰ってからお気に入りのシャーペンで日記を書いて……、
 ああ、そっか。提出するとは思ってなかったからここ数日ごく普通に日記を書いたんだけれど、そのぶんも今度セレシアス先生に読まれちゃうのか。なんだかちょっと気恥ずかしい、かも。
 まったくセレシアス先生ときたら几帳面だ。クラス全員に課題を出したは良いけれど、出しっぱなしにすることができなくて、毎日全員の日記を読んでそれぞれにコメントをつけるだなんて……。ただでさえ教育実習中は多忙を極めるだろうに、大丈夫なんだろうか。
 なんだか心配だなぁ。


日記を書こう