ふと目を開けると、いきなり視界に飛び込んできたのは、白い──色白の顔!
「ひゃあっ!?」
反射的に変な声が出てしまった。
でもね、仕方ないんじゃないかと思う。保健室のベッドでうつらうつらしていて、気がついたら誰かに顔を覗き込まれていた、なんて。
小さく悲鳴を上げた途端にその人は身体を離したけれど。
ああ、びっくりしたあ。心臓に悪いよ。
「す、すまない。驚かせてしまって。一応声はかけたんだが」
教育実習生のセレシアス先生だった。陽に透ける、色素の薄い髪と瞳という色彩的なイメージのせいか、全体的に奥ゆかしくて儚い雰囲気のある人だ。あたしがここで休んでると聞いて、担任のラグ先生の代わりに様子を見に来てくれたのだろう。
……う。そんな、ちょっぴり傷ついたみたいな表情でこっち見つめないで。罪悪感が!
「具合はどう?」
サルビア先生がそっと訊いてくる。
そういえば気分の悪さが薄れていて、さっきよりずっと楽だ。
「だいぶ良くなったみたいです」
「ん、顔色も戻ってるわね」
壁時計を見上げると、いつの間にか一時限目も終わりに近づいていた。教室へ戻らなきゃ。
「無理はしなくていいよ。本当に大丈夫?」
セレシアス先生の口調は相変わらず、おずおずといった感じで控えめだ。
大丈夫ですと答えながら、あたしはなんとも言えない、いたたまれないような心地を味わっていた。この人のぎこちない、不器用な微笑みを見ると、いつもこんな気持ちになる。
例えば腹を抱えて爆笑するとか、かんかんになって怒るだとか。そうやって感情を開け放しで表に出すことなんかほとんどないのだろう、と自ずと伝わってくるからだ。
なぜだか分からない。でも、それはとても寂しいことのように、あたしには思われた。
「……大丈夫、です」
手早く身なりを整えると、サルビア先生に丁寧に御礼を言って。
セレシアス先生に伴われて、あたしは自分の教室へと向かった。
⇒ 中等部の教室棟へ