暁
六二〇年収穫月/ハルイ
ずいぶんと日の出が早くなったものだ。
雑草を丹念に取り分けていた手をふと休め、ハルイは顔を上げた。
長年植え続けてきた白連花は群生となって自宅の裏一面に広がっている。鈴に似た無数の花先が朝露に濡れ、地平の雲間から現れた日輪の陽射しを受けて輝く。まるで光の粒がさざなみとなって揺れているかのようだった。
もう収穫月だな、と空を見上げて思った。
包み込むようなこの淡い香りは、白連花の花期に区切りが訪れようとしている証し。
これから日の出の早まるごとに蕾の数は減り、陽射しの強まるごとに楕円形をした葉の色が濃くなっていくのだ。
野鳥のさえずりを遠くに聞きながら、ハルイは朝焼けの空を仰ぐ。
なんて清浄な朝陽だろうか。きっと今日はよく晴れるに違いない。
「父さん、母さん、ミレイ……」
並んだ墓石に語りかけても、もう以前のように淀んだ感情が胸の中で渦巻くことはない。
ただ静かに肉親を偲び、墓所を取り巻く白連花の手入れをして、青く色づく直前の空を見上げる。
あの少女に会って以来、ハルイの朝はこんなにも穏やかになったのである。
改めて見回せば、白連花ばかりに彩られたこの場所は、春を過ぎると少し寂しいのではなかろうか。
そうだ、何か他の花を植えてみるといいかもしれない。向日葵とか、秋桜みたいな花がいい。それとも菫にしようか。この庭で育てられる花は一体どんな種類があるのだろう。
花屋で白連花ばかり買い求めてきた自分に気づき、苦笑した。
「向日葵が、いいかな」
白連花は月の花、向日葵は太陽に向かって咲く花。
「うん、向日葵がいい。種を植えて、花が咲いて、たくさん種をつけたらまた植えよう」
ハルイは燦然と輝き始めた東の空を見つめ、独りごちる。
まばゆさに思わず目を細めた少年は、未だ払暁のときを迎えたばかりだった。
END