「さらに時が経過して……いつしか、風車にまつわる妙な風評が生まれたの。風車の音を聞いた子どもは死ぬ、とね」
もともとは子どもが死んだ故に風車を供えていたものが、なぜだかそう言われるようになってしまったらしい。
「子どもたちは風車の音に怯えるようになった。自然、幼児の墓に風車を添えるのも憚(はばか)られ、その風習は急速に廃れていったわ」
──ああ、死んだあの女の子はさぞ寂しいに違いない。
ティキュの話を聞いていた一同は誰もがそう思い、顔を歪めた。
「そして……その頃よ、風車にまつわるもうひとつの噂が生まれたのは」
ごくり。誰かの喉が小さく鳴った。
「瞬く間に町中に浸透していった噂は」
夕闇の中、見慣れない幼い女の子が独りで彷徨っている。迷子だろうかと不審に思って声をかけても、女の子はどこか遠くを見つめたまま答えない。
様子がおかしい、どうしてこの子はこんなに存在感が希薄なんだろう、今にも闇に溶けてしまいそうだ──
不意に背筋がひやりとした時、女の子が消え入りそうな声で呟く。
『あたしの風車は……どこ……?』
澄んだ、哀しげな声。
以後、風車を探して彷徨う女の子の姿はたびたび目撃されたという。
「寂しさや悲しみ、やりきれなさ……そういうものをたくさん抱えたまま、彼女は風車を探して、今でも現世を彷徨っているのよ──ほら、聞こえない?」
あたしの風車……どこにいったの?
カラカラ……
カラカラ……
END