4周年記念

青珠館・会議室にて (1)



エルガー「なァ」

レヴィス「なんだ?」

エルガー「この顔触れで座談会って……どうよ」

レヴィス「どうもこうもあるまい」

エルガー「男四人で! まっ昼間っから! 座談会っ! 早い話がおしゃべり会だぞ!? 酒もなしに!」

レヴィス「ないと言えば、時間外勤務手当も出ないぞ」

エルガー「マジかよ!? オレ露草通りの店で飲み代ツケっぱなしなのにー!」

ハルイ「なんていうか……無駄に血圧の高そうな奴だな」

セレシアス「ツケなきゃならないほど飲むのはよくない思う……」

レヴィス「エルガーは血圧よりも痛風が心配だな。つまみにやたらこだわるから。あと飲み過ぎて金がないんじゃなくて、金がないのに飲みに行くからツケる羽目になるんだ」

ハルイ「ろくでなしか」

セレシアス「アル中予備軍?」

レヴィス「むしろ多重債務常習犯だな」

エルガー「ちくしょー反論できねェな」

ハルイ「なあ、アンタ課長なんだろう? 《クリスタロス》ってのはこんな飲んべえでも勤まるのか?」

レヴィス「酒は嗜好品だからな。それで喧嘩沙汰だの問題を起こしたならともかく、馴染みの店で多少支払いを滞らせた程度では」

セレシアス「ツケてる時点で充分に問題なんじゃ」

エルガー「ふっ、オマエにゃ真似できまい」

ハルイ「なぜ胸を張る」

レヴィス「馬鹿な部下で面目ない」

ハルイ「棒読み……。本当に面目ないと思ってるか?」

レヴィス「無論だ。酒好き博打好き女好き、どれもわりとよくいる放蕩者だが、生活を切り詰めてまで酒代に給金注ぎ込む馬鹿はコイツくらいのものだろう」

セレシアス「そんなに酒が好きなのか……」

レヴィス「セレシアスは普段ほとんど飲まないよな?」

セレシアス「はい。課長もたしか」

レヴィス「下戸だ。酒の席ではいつも果実水」

エルガー「あの美味さを理解できないなんて残念だな」

ハルイ「オマエの阿呆さ加減が残念だ」

セレシアス「厳しいツッコミ!」

レヴィス「なかなか見事だな」

エルガー「テメェどう見ても未成年の分際で何を言うか! いいか、一口に酒といっても無数の種類があって、」

セレシアス「そういえばキミって何歳?」

ハルイ「今年で十七。もう成人、だな」

エルガー「聞けよオレの話!」

レヴィス「酒好きもいいがな、あまり身持ちを崩すなよエルガー。故郷のご両親が泣くぞ」

エルガー「うちの親? 泣きやしねーよ。こう見えてもオレは昔からな、兄弟三人の中じゃ一番まっとうなんだからよ」

ハルイ「まっとう? そんな有様で? アンタの両親は正気か?」

セレシアス「ツッコミ三段突き!?」

レヴィス「上級技だな」

エルガー「重ね重ね失敬なッ!」

レヴィス「とにかくだな。ツケるだけならまだしも、短剣投げの余興を披露して客から見物料を取るのはやめなさい。下手すると職務専念の義務規定に抵触するぞ」

ハルイ「しょくむ……?」

セレシアス「《クリスタロス》は副業禁止なんだよ。公的機関に準じる組織だからね」

エルガー「規則で縛られて特技を活かせないとは、なんて不憫なオレ……」

レヴィス「一課から耳打ちされた情報によると、近頃は頻繁に小金を稼いでいるそうだな?」

エルガー「うぐっ」

レヴィス「特技は任務で活かせ。――警告はしたぞ」

エルガー「はぁ……しゃーねェ。クビにされて、ツケが清算できなくなるのは困るな。ティキュもやかましいことだし」

レヴィス「そうだな。お前が飲み屋でツケてるなんて知ったら、たぶん呆れながら怒るぞ」

ハルイ「ティキュって?」

セレシアス「ほら、エルガーと一緒に渡河場まで来てただろう? ――って、キミは見てないか。俺たち三課の同僚で、茶色の髪の、すらっとした女性だよ」

ハルイ「ふうん……“ティキュ”って、アレだな。何年か前に『真夏の夢』の主役を演じた役者と同じ名前じゃないか。珍しい名だけど」

セレシアス「本人だよ」

ハルイ「……はい?」

レヴィス「花形役者ティキュ・カンナギはな、演劇界から身を引いて《クリスタロス》に入ったんだ」

ハルイ「ええっ!? そうなのか!?」

レヴィス「今から五年ほど前になるな。今じゃすっかりうちの看板娘だよ」

ハルイ「へえぇ……知らなかった」

エルガー「もういいかげん娘って歳じゃねーけどな」

レヴィス「そのままティキュに伝えておこう」

エルガー「お願いヤメテー!」

セレシアス「後先を考えてから喋ればいいのに」

エルガー「仕方ないだろ、口の方が先に動くんだよ! 手が先に出ることも多いけどな」

レヴィス「威張れんな」