ファンタジースキーさんに100のお題

013. きび団子 (2)

 パニヤット犬にお説教され、イレイン雉に小突かれながら進むフェルン。
 この様子を見物していたエディック猿は、なんだか面白いことになりそうだったので、一行の仲間になることにしました。
 では恒例の恐怖団子の洗礼を、と思いきや、エディック猿は言を弄してうまいこと危険を回避しました。さすがに知恵が働きます。

「鬼というのは非常に知能が高く、戦闘にも長けている。おまけに大層美しい、素晴らしい魔獣なんだ。キミのように桃だか人だかはっきりしないような輩じゃ、到底太刀打ちできないさ」
「バカ犬の言うことなんか気にするなよ、フェルン。いざとなったら俺が守ってやるからさ……ふっふっふっ」
「いやー、見事なまでに烏合の衆だな☆」

 そんなこんなで、やがて一行は海辺へと出ました。
 波は荒く、今にも風に煽られて沈没しそうな古い漁船が、ぽつりと波打ち際に漂っているだけ。他には何ひとつ見当たりません。
 一行は仕方なくボロ船を失敬し、乗り込みました。
 鬼ヶ島までは数日かかります。この間に起きた騒ぎといえば、超巨大なイカ魔獣に襲われてパニヤット犬が狂喜したり、イレイン雉が何度かフェルンを亡き者にしようとした程度で、一行は概ね平和に船旅を続けました。

「世を騒がす悪鬼め、今こそこのフェルンが退治しに来たぞ! 覚悟を決めて……え?」

 鬼の住処に辿り着くなり勇ましく口上を述べ始めたフェルンでしたが、その声は尻すぼみになっていきました。

「セリーザ様、このケーキとっても美味しいです~」
「お料理上手なんですね。素敵☆」
「今度あたしに教えてください、セリーザ様」
「あっ、ずるい! 私にもー!」

 そこには、華やかな笑い声をたてる少女たちがいました。都から攫われた姫君に相違ありません。しかしどうしたことか、彼女たちは怯えたふうもなく、むしろ進んでとある人物の傍に侍っているではありませんか。

「──ん? 誰だオマエ」

 姫君に囲まれていた者がフェルンに気づき、振り返りました。
 銀色の髪に真紅の瞳。見目麗しい、双角の鬼。
 その姿を一目見た途端、フェルンは手にした刀を取り落としていました。
 あろうことかフェルンは、鬼に惚れてしまったのです……。

「やっぱり鬼は素晴らしい! こんな間近で見れるなんて、感激だなぁ」
「む、隙あり! 今度こそ息の根止めてやるぞー!」
「鬼に惚れたフェルンの図、面白いから都で回覧してやろっと☆」

 それぞれに好き勝手なことを言うお供ども。

「そうか、フェルンっていうのか。鬼ヶ島がそんなに気に入ったんなら、別にここで暮らしてもいいぞ」
「ほ、ホントですか!? ぜひお傍に置いてくださいっ」

 鷹揚な美鬼と、その虜になったフェルン。
 ──こうしてフェルンの旅は目的を果たさぬままサクッと終わりを迎え、鬼ヶ島でみんな仲良く暮らすことになりましたとさ。


「ああ、フェルンが帰ってこないっ。やっぱり鬼退治になんか行かせるんじゃなかった……」
「大丈夫よぅマジュ。あの子はきっと鬼を捕まえてきてくれるわ☆」
「いや、オマエの研究の心配じゃなくてだな」
「あ、フェルンのこと? それも大丈夫! ほら見て、最新鋭のクローン技術の粋を集めて創りました、クローン・フェルン1号、2号……」
「ぎゃあああああフェルンが大漁ぉおーッ!?」
「こんなこともあろうかと、ちゃーんとフェルンの髪の毛をストックしておいたのよね~☆」
「ああああッそんな恨みがましい目で見ないでくれぇ!」
「私ってば用意周到☆ 研究者の鑑ね~☆」
「ああっ、すまん、俺が悪かったぁあああッ!」
「早くフェルン(原本)帰ってこないかしらね♪」

 ……めでたし、めでたし……?


 END