「おう大兄貴、邪魔するぜ!」
「美味い桃が手に入りましてな。これは蜜漬けです。奥方にと」
声と共に姿を現したのは張飛さまと関羽さま。張飛さまは果物籠にこぼれ落ちそうなほど盛られた桃を抱えて、関羽さまはすでに切り分けられたものを皿に乗せて。
お二人とも劉備さまの義弟で、それぞれとても優れた武将でいらっしゃいます。正室として嫁いできた尚香さまのことを何くれとなく気遣ってくださって、こうして差し入れをしてくださることもたびたびでした。
「美味しい! なんだか懐かしい味がするわ」
「南方で採れたそうです。奥方のお口に合うかもしれんと、兄者が言うもんだから」
「何を言うか。馬に積みきれんほど買い込んだのはお前だろうが」
「そうか、二人で買いつけに行ってくれたのだな」
「ありがとう。甘くてすごく柔らかいわよ。みんなでいただきましょう」
たちまち
芳醇な香りが四阿に立ちのぼり、和やかに談笑する四人を包み込んでいきました。
弾ける笑い声。優しく吹き抜ける風。周囲に広がる目に眩しいほどの緑。
悠久なる長江の傍ら、うねるような熱気に包まれていた、あの懐かしい建業とは異なる地……。
新しいお茶を淹れ終えて、私はふと空を見上げました。蒼穹。切ないくらいの透明感。
いずれ曹操と正面切って衝突するときが訪れれば、おそらくここは真っ先に戦場となるでしょう。そしてここに暮らす人々は、先鋒となって強大堅固な曹操にぶつかっていくことになります。
いつか幼い頃に見たような白い雲が、ゆったりと流れ、私たちの遥か頭上を通り過ぎてくのが見えました。
避けられないのなら、せめて少しでも長くこの幸福が続きますように。
尚香さまの笑顔が陰りませんように。
どうか乱世に、今しばらくの平穏を。