園芸部は、高等部一年のハルイ先輩を中心に活動する小さな部だった。部員は全部で五名だという。
 部室棟と呼ばれる平屋の建物には無数の小部屋が並び、園芸部に部室としてあてがわれているスペースもその片隅にある。中に入ってみて驚いた。部室というよりまるで納屋だ。シャベルやスコップ、土嚢袋に入った肥料に束ねられたホースなどが雑然と置かれ、用具以外の備品といったら中央に据えられた丸テーブルと椅子がせいぜいだ。
 どの道具も使い込まれていて、しかも丁寧に手入れされているようだった。
 壁に貼られた横長の大紙が目を引いた。覗いてみると年間計画のようだ。どの時期にどんな作業をするのかが一目で分かるように書き込んである。
「なに入部希望!? もちろん大歓迎だよ! うちは弱小だけど部の歴史は長くてね。人数は少なくても草花が好きな人が来てくれればいいと思ってるんだ」
 手放しで大歓迎してくれたハルイ先輩は、本心からそう言っているようだった。園芸が心底好きなのだろう。見ているだけで気持ちが伝わってくる。
「じゃあとりあえず仮入部ってことで、三週間。僕の仕事を手伝いながら活動の概要を見てほしい」
「はい。よろしくお願いします!」

 正門、玄関前、中庭。園芸部の手がける花壇は主にこの三箇所に集中しているようだ。
 誰がどのブロック担当かがそれぞれ決まっていて、朝と放課後、場合によっては休み時間にも季節に応じた手入れをする。全員が集まるミーティングは週に一度、在庫チェックと買出しは月に二回、交代で。
 これが園芸部の活動のあらましだった。ハルイ先輩はさらりと説明してくれたけれど、口で言うほど簡単な活動ではないだろう。害虫がついたり嵐でなぎ倒されたりしないように、常に気を配って世話をするのだから。
 改めて花壇を見ると、緑の葉は瑞々しく伸びて花があちこちで咲き誇っている。これはみんな先輩たちの毎日の仕事の成果なんだ、と実感させられた思いだった。
 ──あたしも、やってみたい。
 運動着に着替え、髪をまとめて結い上げ、軍手をはめて意気軒昂、準備万端ととのったあたしは、ハルイ先輩と共に中庭へと赴いた。
 そして……絶句する。
「なっ、なななな、何ですかこれ?」
 中庭の一角。表からは陰になって目立たない区画。
 繁茂、はびこる、大発生。そんな単語が頭の中を飛び交う。視覚から入ってきた情報を認識処理するのを脳が拒んでいるかのようだ。
 そこには面妖な植物が茂っていた。もう、まさにそうとしか表現のしようがないのだ。
 今までの人生で一度も見たことがない、やたらつやつやした青緑の太い蔦が四方に伸びて、互いにびっしりと絡まりあって鞠のようになっている。花壇からはみ出てなお侵食を続けたらしく、もはやどこが大元なのか判別不可能。歪な青緑色の草絨毯に覆われた、呪いの花壇──。
 秘境に自生する新種の植物? 近未来バイオテクノロジーの産物? とにかく謎の植物であることには間違いない。あたしは半ばパニックを起こしながら傍らのハルイ先輩を見上げた。
「いやあ、実はこれ、いつから生えてるのか分からないんだ。花を植えずに休ませてた花壇に、いつの間にか根を張っちゃったみたいで。なんとかしたいんだけど、なんせ畑用のクワを入れても歯が立たなくてね。だから思い切って育ってみることにしたんだよ。見たことない種類だろ? 物珍しくって」
「そ、育ててるんですかコレ!?」
「でもなあ、さすがにここまで広がってくると心配だよなぁ。アリア、キミはどう思う? この植物の世話を続けるか、どうにかテを考えて処分するか」


(1) 世話してみよう

(2) 怪しいので処分!