最果ての地 (2)
いつまでもエリッサの傍にいたい。
こうなってしまった以上、もうエリッサの傍にはいられない。
幾月もにわたる旅を経て、北壁と言われるキーツ山脈の裾野に広がるこの樹海まで辿り着いた今もまだ、胸が悲鳴を上げている。
まるで嵐にさらわれる小舟のようだ。渦巻く感情に翻弄されて、抗うすべを持たない。
僕は途方に暮れてエリッサを見上げた。そして悟った。
瑞々しい娘そのものの容貌は、彼女の天寿が尽きる瞬間まで衰えることがない。出会ったときと変わらぬ姿のまま、かけがえのない人を待ち続けるのだろう。
二人だけの約束の場所だという、光のさす美しい湖のほとりで。
いつまでも、いつまでも待ち続けるのだろう。
──エリッサ。僕の唯一の、かけがえのない人。
僕がいなければ、砕け散った心を抱いて、彼女はそれでも穏やかに暮らしていくことができる。
僕が傍にいるとエリッサのためによくないということは、とうに身に染みていた。哀しいほどに、それは明らかだった。
年月を重ねるごとにエリッサは病んでいった。間近でその様をつぶさに見てきたから言えること。僕がいる、“あの人”がいない。それでは駄目なのだ、決定的に。
僕がいなければエリッサは“あの人”と出会った頃に立ち返って、凪いだ楽園の中で傷を癒すことができるのだろう。
つまり、それが、僕の探し当てた結論だった。
空を覆い隠すほど密に茂った木立。一歩踏み入れば、生々しい緑の匂いが濃く漂ってくる。
柔らかな陽射しを浴びたリュミレス樹海は、外の世界で深手を負った娘を静かに迎えてくれるようにも見えた。
さようなら、エリッサ。
僕の唯一の、かけがえのない人。
繋いだこの手を離す一瞬を、僕はきっと死ぬまで忘れない。
イラスト:KT様